国内最強フェンサーを決める全日本選手権の個人戦が終了し、結果は11位。試合で感じた「自信のある自分」と「それを邪魔する自分」の葛藤を通して一流のパフォーマーが行っている練習と本番の心得を知りました。自分を表現するためには己の心に打ち勝ち余計なことを考えないことが必要です。

国内で1番大きい試合である全日本選手権の個人戦

12月7日に駒沢体育館で全日本フェンシング選手権(個人戦)が行われました。
国内では1番大きな大会で年齢制限がなく、学生や社会人の選手が出場します。

試合は予選とトーナメント戦があり、始めに6人と戦う5本勝の予選を行いました。
予選の3試合目で高校生の選手に5対1で負けたのがきっかけで「リスクを背負って戦っていない」と気づき、その後のチャレンジを入れた試合展開で順調に勝ち、予選は5勝1敗で通過しました。

新しい技をマッチポイントで決めたトーナメント2回戦

全体の12位で予選を通過し、15本勝負のトーナメント戦に突入しました。
1回戦は鹿児島の高校生に15対6に勝ち、2回戦は右利きで東京の高校生に15対4で勝ちました。
2回戦でアルジェリアの大会後に練習してきた、手首の回転を入れて相手の的の下を狙う突き(相手にとって予測しずらい突き方)を15本目で決め、試合後にコーチからは「左利きの選手に使いが右利きに決めるほうが難しいぞ。よく決めたな」と言われ嬉しかったです。

試合の流れの入れ替わりが激しいシーソーゲームの3回戦

3回戦のベスト8を決める試合は社会人で背の高い選手と対戦しました。
ナショナルトレーニングセンターで共に練習している相手で、戦略をイメージして試合に臨みました。

先制点は私が準備していた、相手のパターンに応じた技で決めました。その後2点取られて2対1になるも、相手を誘いだして突く攻撃や、背の高い相手に有効なフレッシュ(走りながら相手を突く技)といった、イメージしていた技が連続して決まりました。
6対3のリード中に「この勝っている流れで思いっきりしかけよう」と、審判の「始め!」の掛け声直後に仕掛けた攻撃が作戦通りに的中しました。

その仕掛けで7対3となり「この流れで15本を取って勝つ」と、8点目の戦略を考えた時。これまでの試合の流れを振り返ると、勝手に身体が動いて点数をとっていたのに気づき、「何で、なぜ点を取れたかわからない」と疑問になり「こんなうまい話が本当にあるのか」と私の中にいるもう1人の自分が問いかけました。

私が以前読んだ本である『〈勝負脳〉の鍛え方』で、「リードしている時こそ要注意。リード中の余裕は相手にとって逆転のチャンス」というような内容を思い出しました。
10月の試合で点差があってリードしていた私が、易度の高い振り込み(剣をしならせて突く技)に挑み、その技にこだわった結果、試合は勝ったものの、ひやっとした展開だった経験が頭をよぎったのです。

私は「そうならないためにも慎重に」となり、ひらめいたアイディアに「本当にできるのか?」と不安を抱くようになりました。そして迷っている間に点数を取られ、リードから点数を追い越されました。

そこから点数を離され11対9で負けている時、コーチの「ここ踏ん張るぞ!」を機に、何としてでも点数を取ろうと仕掛けた捨て身技が決まりました。そこから連続で2点を取り11対12と逆転です。

「よし!流れがきてる!!」

と思ったときに現れましたもう一人の自分が。「ここから相手は勝つために変えてくるかもよ」と。相手は前後にジャンプする揺さぶりを行い、それを見過ぎた私は動きが止まり、点数を取られ12対12の同点になりました。

そのまま流れをもっていかれ13対12で相手にリードを許し、「このまま14点のリーチをかけられると自分が苦しくなる」と感じ、試合の中でよく取っていた防御からの攻撃で勝負しました。

そして相手の攻撃を防いだ後に私が攻撃をして突き!「よし!」・・・と思ったら私が突いたのは点数にならない無効面、相手は有効面を突いていました。

フェンシングは同時についても優先権をもつ側に点数が入るルールで、私は「惜しい、無効面か」と思っていました。

しかしそれが予想外で、審判は相手に優先権があったと判定。相手にリーチである15点が入ろうとした時に、「ビデオを使え!」と声が聞こえました。

私はすぐさま審判に「ビデオ!」と両手で長方形を描くジェスチャーを行い、ビデオ判定に持ち込みました。ビデオ判定中は「成功したらラッキー。失敗しても次は取る」と気持ちは次に備えていました。

ビデオ判定のチャレンジは成功し、相手にマッチポイントを与えるのを回避しました。

その時に私は「勝負の運は私にある、ここから逆転できる」と確信し、次のターンで狙いを実行したものの、相手の得意技で防がれ、14点のマッチポイントを奪われました。

それでも私は「勝ちたい、諦めなければチャンスがやってくる」と思い、審判に顔を拭きたいと伝えタイムを取り、わざと時間を使って1本をとる準備しました。

「ここで負けられない。次は相手が出てくるのを誘い、もし相手が誘いに乗ってこなかったら自分から攻撃する」と決めていました。そして私はそれを実行し、攻撃で13点目を獲得。14対13の1点差になりました。

さっきのように相手の様子をみて仕掛けようと考えていた中、相手の攻撃に足が止まり、15点目を取られ、私の全日本の個人戦は11位となりました。

自分と葛藤していたのは過去の私

戦術や戦略の面で反省点はありますが、僅差の試合は気持ちの戦い。振り返ると私は相手だけでなく、自分とも戦っていました。

上手くいっている時に現れたもう1人の自分。
あれはきっと「過去の自分」であり、新しいことを身に着け、成長している自分に更新する途中に遭遇した過去の私でした。

プロから教わる自信を越えた無意識のパフォーマンス

試合の翌日。私の身体の使い方を教えてくれるアスティエの先生に「リードしている間に自分を信じられない時がありました」と報告すると、「だから自分を信じろって言ったじゃん!動ける身体になってるよ!」と言われ、気持ちの指導をして頂きました。

バレエでも調子の良いときは舞台中の踊りっている記憶がなく、国宝級のバレリーナは自分を上から見下ろして幽体離脱をして躍っているらしいです。

動作中に「体をこう使って・・・」と考えず、流れに身を任せて気持ち良く踊るほうがパフォーマンスが良いとのことです。
フェンシングは相手と戦う競技なので、自分の動きだけを考えている時間はありません。

「バレエはパフォーマー、わざわざお金を払ってくれるお客さんに満足して観て頂くためには不安は見せられない。だから考えずに無心に踊れるまで練習をする。」と教わりました。
フェンシングも同じで、審判や応援してくれる人がみています。相手はいるけれど、試合をみせることに変わりはなく、自分の動きは邪念を消して無心に行い、相手に注目しなければいけないと学びまた。

    私が今回の試合で学んだ気持ちの意識

  • 試合は気持ちの面で勝敗を決め練習では考え尽くすが、試合中はあれこれ考えない。
  • 無意識に身体が動くのは今まで習慣があるから。(良い事も悪いことも)
  • 自分を信じられないと邪念があり無意識になれない。無意識に実行できる習得と自信を持ち続けるために自分と向き合うこと。

挑戦や失敗から学び次の試合へ生かす

気持ちを良い方向にコントロールできる選手になって、来年の全日本選手権の個人では優勝します。

会場に足を運んで頂いた方や日々の活動をみてくださっている皆様、応援ありがとうございました。私はここから強くなります。これからも見守ってください。よろしくお願いします。