元五輪選手がドーピングを禁止する理由、検査の実施方法やこれからアスリートが気を付けるべきことを高校生から大人までわかりやすく解説してくれました。
目次
山形の国体合宿で元五輪選手によるアンチドーピング講習会に参加
8月10日から12日まで山形県米沢市の三沢東部小学校の体育館で「国体合宿」を行いました。
この合宿は福井国体への出場権獲得を目的とした山形県の強化合宿です。
山形県の代表選手の他に、スポーツ少年団や地元の高校生や大人、関東や関西に所属している大学生が帰省して共に練習をしました。
また今回は神奈川県の代表選手や法政二高の選手も合宿に参加しました。
冷房のない体育館で選手たちの熱気が混じった暑い中、試合形式を中心に練習しました。
10日の夕食後には、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)の委員である原田めぐみさんがドーピングについての講習をして頂きました。
原田めぐみさんは山形県南陽市出身で、アテネと北京五輪にエペ種目で出場した元アスリートです。
国体でも実施されるドーピング検査についての基礎知識や副作用の恐ろしさ、スポーツ界の現状と危機を知る機会になりました。
ドーピングの基礎知識とアスリートが気を付けることとは
ドーピングとは禁止されている物質を利用することで競技力を上げようとすることであり、フェアプレーに反する行為です。薬の力を利用してムキムキになるのは反則で、地道に努力をしているアスリートに失礼な行為です。
その行為を禁止し、アスリートが平等で競技をしていることを証明するためにドーピング検査が実施されています。
ドーピング検査とは
ドーピング検査は、国体や全日本選手権などの競技後に、抜き打ちで選ばれた選手が対象になります。ドーピング検査は尿検査で、検査委員の立ち合いで行います。
対象になった選手は、どんな理由があろうとも対応しなければいけません。
例えば「早く会場を出発しないと帰りの新幹線の時間が間に合わない」という場合でも検査をしないと、フェアを証明していないためドーピング違反になります。
ドーピング違反をした場合は、過去の成績のはく奪と、原則2年または4年の競技資格停止です。団体戦で優勝しても、その競技会のドーピング検査で違反になってしまった場合はチーム全員の優勝がなかったことになります。
2位の選手は繰り上げで優勝になりますが、優勝台に立って表彰式をすることはありません。
知識不足で陥る「うっかりドーピング」
過去のドーピング違反で多いのは知識不足が原因でやってしまう「うっかりドーピング」です。
例えば
- 市販薬を飲んでいた
- 栄養ドリンクやサプリメント、漢方薬はドーピングに影響しないと思っていた
- 今まで飲んでも違反にならないサプリメントを飲み続けていたら今年から違反になった
- TUE申請をするのを忘れていた
気軽に買える市販薬に禁止物質が含まれていることが多いです。
また風邪薬でもバファリンやパブロンに複数の種類があり違反になるものとならないものがあります。また目薬や塗薬も「薬」のため注意しなければいけません。
栄養ドリンクやサプリメントは確実に禁止物質が入っていると断言できないため、選手の自由で飲むと言われています。飲む場合には成分表記を確認した上で飲むべきです。
特に注意しなければいけないのは、海外で購入するものです。海外での生産は複数の製品と一緒に生産している事が多く、成分表記と違った成分が間違って入る可能性が高いです。
漢方薬も「薬」です。漢方薬は成分表記がありますが、原産地が特定できないため禁止物質があるか調べるのが困難です。そのため漢方薬は飲むべきではありません。
禁止物質は毎年更新されます。そのため去年まで禁止物質でなかったものが、今年から禁止物質になったというケースがあります。常日頃、自分が飲むサプリメントの情報を調べる必要があります。
どうしても禁止物質を使わないと治療ができない場合には「TUE申請」をすることでドーピング違反をすることなく競技生活をすることができます。
TUE申請は薬を服用する前に申請しなければいけませんが、突然の事故で命を左右する緊急な場合には事後申請が可能です。大切なのはTUE申請をすることです。
またTUE申請には有効期限があるため、期限が切れると再度申請する必要があります。
ドーピング違反にならないためにアスリートが出来ること
このような「うっかりドーピング」をしないためにアスリートが予防できることがあります。
- 市販薬を購入せず、医師の処方箋をうける
- ドーピングに関して疑問点があれば「スポーツファーマシスト」に相談する
- 係りつけの病院や薬局を持つ
- 薬を理解して使う
ドーピング違反のリスクが高い市販薬を購入するのは控え、医師の処方箋から薬を購入しましょう。
診察の際に「私はアスリートなのでドーピング検査を受ける可能性があります」とはっきうり伝えることがポイントです。
ドーピングの専門知識がある薬剤師(スポーツファーマシスト)が全国各地にいます。
直接スポーツファーマシストがいる薬剤師に聞きに行くだけではなく、電話やメールでの相談が可能です。「スポーツファーマシスト会員検索」とインターネットで検索すると自分が住んでいる地域のスポーツファーマシストを簡単に探すことができます。
アスリートに理解がある係りつけの病院や薬局を持ち、遠征や合宿の際には常備薬を買い揃えることをお勧めします。薬がない心配をするより事前に薬を買うことで「もし薬が必要になったらどうしよう」の不安が減ります。私は自分が体調を崩す時によく飲む薬を知っているので、常備薬として持ち歩いています。
自分が何の薬・サプリメントを使っているのか、それが禁止物質でないかを理解する必要があります。周りの人が「これはドーピング違反にならない」と言ったから飲むのではなく、自分で確実な情報を得るべきです。アスリートは人任せにせず、身体や食べ物に責任を持ち、自己管理をすることでドーピングや怪我への危機感を持つことができます。
このことが選手生命を伸ばす鍵だと私は思います。
講習を聞いて鳥肌が立ったドーピングの副作用の恐ろしさとスポーツ界の危機
講習の最後に質疑応答の時間がありました。
そもそも「なぜドーピングをしてはいけないのか?」
それは、選手の健康を守るためです。
ドーピングは選手の体を壊し、死に陥る可能性があります。
1980年代半ばに、東ドイツの選手が女子の砲丸投げで世界記録を更新しました。
スポーツ科学が発達し様々なトレーニング方法がある今でも、その記録は未だに破られていません。
そして、彼女は長年のドーピングによるせいか、副作用でホルモンバランスが異常となり男性化しました。男性に見られる喉仏や髭が生え、まるで顔がおじさんになりました。
その年代でのスポーツは、勝てば豊かな暮らしが一生保証されるため、選手は自分や家族のために何が何でも結果を出そうとしました。そして今では禁止されている薬を使い、結果を出す代わりに選手の寿命が削られました。当時のアスリートの寿命の平均は30~40歳でした。
アスリートもひとりの人間。健康が第一です。
命を引き換えしてまで競技をするものではありません。
現代のスポーツ界の危機
2018年の平昌五輪ではロシアが国家ぐるみでドーピングをした可能性があり、国際オリンピック委員会はロシアに国を背負って競技をすることを禁じました。
ロシアの選手はロシアの国旗や白・青・赤の色のユニホームを着る事を禁じられ、「RUS(ロシア)」ではなく「OAR(ロシアからのオリンピック選手)」として出場しました。
このようにドーピングが多い国は、自国としての出場が認められません。
またドーピング違反が多い競技は、オリンピック種目から外される危険があります。
特にウエイトリフティングは今のところ除外される可能性が高いです。
このように、フェンシングも「ヨーロッパ発祥の競技だからオリンピック種目であり続ける」と断言することはできません。オリンピック種目から除外されることは、オリンピックを目指しているアスリートの夢が絶たれることになります。
選手ひとりひとりがフェアであることを証明し、真のアスリートとしての価値を高めることが、潔白のスポーツ界であり続ける方法です。
私たち選手は知識を持っているだけではく、「ドーピングは決してしてはいけない」と情報発信ができるアスリートでありたいです。
いよいよ国体出場を決める大会が宮城県で開催する
8月24日から26日まで宮城県の宮城野体育館で東北大会(ミニ国体)が開催されます。
この大会は少年男女や成年女子にとって、国体出場が決まる大事な試合です。
私たち成年女子は、チームの団結力を高めるために大阪遠征や国体合宿をしてきました。
東北大会でチーム力を発揮し、優勝して国体出場を狙います!
また成年女子だけではなく、少年男女も国体に進めるように山形県勢で力を合わせて頑張ります!